管理組合が難問処理に手間取る理由 【管理費見直し;管理費削減】

0207014




施工ミス」による補修工事の申し入れ

 首都圏に立つAマンションに、このほど、深刻な問題が発生した。
同マンションは、高さ約10階、戸数約50戸、築後約10年。
大手5社の一角を占めるゼネコンB社が設計・施工した、
品質のいい分譲マンションと目されていた。

 しかし、B社はAマンションの管理組合に、
最近、「寝耳に水」の話を申し入れてきた。

「建物の施工にミスがあったため、構造的に弱い個所があることが判明した。
このまま放置しておくと、建物に不具合が生じるだけではなく、
地震に耐えられない恐れがある」

「弊社にミスがあったことは明らかなので、費用をすべて負担して、
補修・補強工事を実施したいと考えている。工事を認めていただけないだろうか。
なお、半年程度と予想される工事の期間中には、
マンションから一時的に退去していただく必要が生じる」

 居住者にとっては、とんでもない災難である。
しかし、若干の救いもある。

 それは、仮に、デベロッパー、ゼネコン、設計者等が責任を認めない場合には、
管理組合は長期間に渡ってしんどい裁判を闘わなければならないからだ。
また、裁判に勝ったとしても、関係者に経済的な体力がない場合には、
問題は解決しない。現に、姉歯建築士が設計した耐震偽装マンションでは、
入居者や入居予定者が多大な損害を被った。

 その点、ゼネコンB社は自らの責任を認め、かつ補修・補強する経済的な体力もあるので、
所有者にとっては「不幸中の幸い」といえなくもない。

「合意」という足かせ

 この問題を処理する場合、まず、マンション所有者が「合意」する必要がある。

 分譲マンションは、所有者個人が「自由」にできる専有部と、
マンション所有者全体の「合意」が必要な共用部に分かれる。
この合意について、「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)は、
「普通決議」と「特別決議」の2種類を定めている。

 (1) 普通決議──「所有者および議決権」の「過半数の賛成」で可決。

 (2) 特別決議──議案によって、「所有者および議決権」の
「4分の3以上の賛成」で可決する場合や、「5分の4以上の賛成」で可決する場合などに分かれる。

 (3) 議決権──「所有する住戸の専有面積」を「全体の専有面積×戸数」で割った値。たとえば、100平方メートルの住戸に住む人は、50平方メートルの住戸に住む人の、2倍の議決権を持つ。

 ゼネコンB社が費用を負担して行われる、Aマンションの補修・補強工事の場合にも、
「普通決議」または「特別決議」にもとづいて、所有者の「合意」を得なければならない。

 住民の考え方は、当初は、大きく3つに分かれていた

 第1が、「補修・補強工事を実施すべき」派。
「ゼネコンB社が責任を求めているのだから、早急に工事を実施してもらい、
建物の耐震性を回復しなければならない」。

 第2が、「工事に難色」派。
「自分は高齢なので、一時的に退去しろといわれても、対応するのが難しい。
退去が必要であるのなら、耐震性に不安があっても、このまま住み続けたい」。

 第3が、「買い取り要求」派。
「構造に欠陥があることが分かっていれば、そもそも、マンションを購入することはなかった。
住戸をゼネコンB社に買い取ってもらいたい」。

 現在は「補修・補強工事を実施すべき」とする方向で意見がまとまりつつあるようだ。
Aマンションの所有者および管理組合は賢明に行動して、この難関を乗りきってほしいと思う。


建て替えに13年要した「グランドパレス高羽」

 阪神淡路大震災では、「合意」が得られなかったがゆえに、
被災してから建て替えられるまで、実に13年もかかった例がある。
六甲山麓の高台に立つ12階建て、178戸、
1980年竣工の「グランドパレス高羽」である。

 大震災で被災した後、同マンションには、波瀾万丈の出来事が続いた。

 第1幕が「見積金額の乱高下」。
被災した建物の建替費用を1戸当たり1500万円程度。
これに対して、補修費用の見積もりは「300万〜450万円」、「800万円」、
「480万円」と二転三転。
このため、居住者は何を信じていいのか分からなくなり、疑心暗鬼に陥った。

 第2幕が「建替派と補修派の対立」。
採決の結果、「5分の4」をわずかに上回る数字で、建替派が多数を占めた。
補修派はこれに反発して提訴したが、2003年に、最高裁で敗訴。
ようやく建て替えが決まった。

 第3幕が「建替工事の完了」。2008年9月、建替工事が完了。
兵庫県住宅供給公社が分譲する「グレイスビュー六甲山手」(170戸)として生まれ替わった。
阪神大震災以前に入居していた178戸のうち、マンションの権利を持ち続けたのは36戸にとどまった。

 当時は、「関西では大地震が起こらない」とされ、
被災時にどう対応するか決めていなかった分譲マンションが多かった。
そのため、難問に直面したとき、所有者がうまく「合意」できずに、
いわば立ち往生したのである。


「上野下アパート」の建て替え

 2012年10月9日、三菱地所レジデンスは、
「上野下アパートのマンション建替組合の設立が認可された。
当社は参加組合員として事業に参画する」と発表した。

 「上野下アパート」(東京都台東区東上野五丁目)は、
現存する最後の「同潤会アパート」である。
同潤会は、1923年(大正12年)に発生した、
関東大震災の復興支援のために設立された財団法人。
東京と横浜の16個所に、当時としては先進的な、
鉄筋コンクリート造の集合住宅を建設した。
東京都内の同潤会アパートの大部分は、後に居住者に払下げられた。

 このうち、「上野下アパート」の竣工は1929年(昭和4年)。
建物や設備の老朽化が進み、防災面でも不安を抱えていたが、
長い間、区分所有者の合意が成立しなかった。

 最近になって、ようやく話が煮詰まり、
管理組合が2011 年3月にUG都市建築をコンサルタントに選定。
さらに、10月に三菱地所レジデンスを事業協力者に選定。
2012年4月に決議が成立し、築後85年で建て替えが決まった。

 現アパートは、延床面積が約2094平方メートル、総戸数71戸であるのに、
新マンションは延床面積が約8416平方メートル、総戸数128戸となる。
すなわち、容積率にゆとりがあったため、その分を売却することで、
現区分所有者の経済的な負担を低減できる、「恵まれたケース」だった。

 それでもなお、「合意」が足かせになって、難問を解決するまでに、
長すぎる時間を要したのである。


「被災マンション法」の改正案


 日本経済新聞が伝えるところでは、2013年の通常国会に、
分譲マンションに関する2つの法律の改正案が提出される。

 まず、法務省による、
「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(被災マンション法)の改正案である。

 そもそも、現行の「区分所有法」には、建物を「解体」して
区分所有関係を清算する規定は存在しない。
よって、「解体」については民法の原則が適用され、
民法で定められた「区分所有者全員の同意」が必要になっている。

 さらに、阪神淡路大震災をきっかけに制定された被災マンション法も、
「再建」を前提とした特別法で、「解体」に関する規定はなかった。

 このため、大災害に襲われたとき、「全員の同意」が足かせになって、
復旧が遅れる可能性があると判断。
「被災マンション法」に「取壊し決議制度」を新設して、
「所有者および議決権」の「5分の4以上の賛成」で取り壊せるようにする。


「耐震改正促進法」の改正案

 次に、国土交通省による、
「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(耐震改正促進法)の改正案である。

 これは、床面積が5000平方メートル以上の建物、
および幹線道路や震災時の避難路に沿った建物に、耐震診断を義務づける。
調査に応じない建物の所有者には、50万〜100万円程度の罰金を科すことも検討している。

 耐震診断の結果、十分な耐震な性能がない建物には、
改修や建て替えを求め、従わない場合には、建物の名称を公表する。

 この耐震改正促進法は、阪神淡路大震災をきっかけに制定。
多くの人が利用する一定規模以上の「特定建築物」について、
建築物が現行の耐震基準と同等以上の耐震性能を確保するように、
所有者の「努力義務」を定めていた。

 今回の改正案は、罰金と建物名称の公表を付加することで、
「努力義務」に強制力を持たせる。

 現在、分譲マンションにとって、「最大の難問」として心配されているのが、
南海トラフ巨大地震および首都直下地震である。
地震に襲われたとき、柔軟に対応できるよう、法制度の動向を注視しつつ、
管理組合としてあらかじめ何タイプかのシナリオを用意しておく必要があるのではないか。


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